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東京地方裁判所八王子支部 昭和34年(ヒ)4号 決定 1960年1月30日

申請人 三角力蔵

申請人 高橋丑松

右両名代理人弁護士 辻仙二

相手方 多摩自動車交通株式会社

右代表者取締役 原忠夫

右代理人弁護士 並木俊守

主文

本件申請を却下する。

理由

本件申請の要旨は次のとおりである。

多摩自動車交通株式会社は昭和二八年一二月一二日設立にかかる資本金六〇〇万円、一株の金額五〇〇円、発行済株式の総数一二、〇〇〇株の、一般乗用旅客自動車運送事業及右に付帯する一切の業務を目的とする株式会社である。申請人らは昭和三一年三月一二日から右会社の株主であり、申請人三角は昭和三一年六月一〇日取締役に選任せられ、引続きその任にあるもので、現在二、〇四〇株の株主であり、申請人高橋は現在四〇〇株の株主である。しかるところ、右会社には次項のとおり、業務の執行に関し不正の行為または法令、定款に違反する重大な事実あることを疑うべき事由が存するから、商法第二九四条により会社の業務及び財産の状況を調査せしむるため検査役の選任を申請する。

一、相手方会社は設立に際して発行する株式総数六〇〇〇株のうち五〇〇〇株を発起人荒井源吉七〇〇株、原忠夫一、〇〇〇株、小杉豊五〇〇株、橋本利一一、二〇〇株、平井長蔵六〇〇株、織田四郎八〇〇株、織田悦子二〇〇株を夫々引受け、昭和二八年九月二五日定款を作成し、公証人の認証を受け、残株一千株について株主を募集し申込人平沼長作、平沼鶴吉、平沼与八、平沼勇、庄司武士が夫々二〇〇株を申込み、全株式払込完了したものとして昭和二八年一二月一一日創立総会を終結し、同年一二月一二日設立登記を了しているものであるが右株式のうち二、八〇〇株この金額一四〇万円については実質上払込がなかつたため、発起人総代荒井源吉は払込金三百万円を一時東邦信用金庫吉祥寺支店から借入れ、之を以て全額払込を仮装して右設立登記を了しているものである。

これは商法第四八九条第一号、同第四九一条に違反するものである。

二、更に被申請会社は昭和三二年四月三一日取締役会において額面株式六、〇〇〇株の新株発行の決議を為し株主を募集し、昭和三二年六月五日の払込期日に各一株につき金五〇〇円発行価額の払込を完了したものとして昭和三二年七月一〇日その旨登記を了しているが、右新株式の払込は払込期日である六月五日に現実に全株数について払込が完了しなかつたに拘らず、東邦信用金庫吉祥寺支店から払込金保管証明が発行せられて右新株式発行による増資登記がなされているものである。

右は商法第四九一条に違反するものである。

三、(イ)被申請会社は定款第一五条により毎年二月及び八月定時株主総会を招集すべきものなるところ設立後二年間は右定時株主総会は開催せられなかつた。

(ロ)又被申請会社代表取締役原忠夫は取締役会の承認を得ずして会社に対して貸付金を為し、利息を収受し、原個人使用の自動車(オースチン)を買入れた代金を支払うために振出した手形を会社に於て決済して居り、更に右会社に対する貸付金の返済を受くるため、金融業者岩崎商事より高利にて借入た資金を振替え決済とする等、取締役たる忠実義務に背いて自己の利を図り、会社に損害を与えているものである。

右は商法第二三四条第二五四条ノ二、第二六〇条ノ三、第二六五条に違反するものである。

四、申請人等は昭和三四年五月二七日午後二時相手方会社第六回定時株主総会に出席して、第一号議案である昭和三三年度第六期決算書貸借対照表、損益計算書承認の件について審議するに当り、議長たりし代表取締役原忠夫は申請人高橋が右決算書に対して左記の点についての質問を為したるに何等の答弁もなさず、又担当社員に対して答弁をさせようとせずして直ちに採決に入つて之を可決した。

(イ)臨時株主総会において決定した役員報酬配分の内訳はどうか。

(ロ)営業収益と経費内容の内訳はどうか。

(ハ)走行粁に対する収受運賃の比率及ガソリン消費の具体的説明。

之は株主総会に於ける議決権行使並に会社営業決算に対する株主の質疑権行使を無視し、議長の正当な権限を濫用して右質問に対して何等説明を為すことなく、採決を強行して決議を成立せしめた違法があるものである。(此の件については別訴を以て決議の方法が著しく不公正なものとして、商法第二四七条により決議取消の訴を提起した。従つて右第六期決算書承認の件は当然遡及的に無効になるものと思料する。)

五、更に第六期決算書については左記のような不明違法な点が存するものである。

(イ)前期決算書には会社は個人よりの借入金はなかつたのに今期の決算書には二三〇万円の個人借入金が存するも、右については取締役会において承認したことはなく、その内容が不明であること。

(ロ)役員の賞与は会社の利益金処分として株主総会で決定すべきであるに拘らず、その記載がなく、一般管理費即ち経費の中に包含せしめているのは違法であること。

(ハ)会社経営について原社長は取締役会を開かず、すべて独断専行して居り、前期決算で土地建物勘定一五五七、九四〇円が今期決算で二六〇七、九四〇円となつている理由が不明であること。

(ニ)原社長は取締役会の承認を得ないで、買入土地五〇坪を某道路工事建設会社に賃料一ヶ月金二、三千円にて賃貸しているが、右賃料は借入金支払利息に比較して不当に低額であること。

(ホ)会社の個人借入金の利息は社長、常務からの分は日歩五銭で総額金一〇〇万円、その他からの借入金は月三分で総額金一三〇万円であるが、この金利を計算すれば社長常務分一〇〇万円は月一五、〇〇〇円その他の分一三〇万円は月三九、〇〇〇円合計金五四、〇〇〇円となり、このような高利を借入れて会社を運営することは会社の利益を無視するものであること。

よつて按ずるに本件記録添付の多摩自動車交通株式会社の登記簿謄本、同会社作成の申請人らが同会社の株主たることの証明書(二通)により、相手方会社が申請人ら主張のような会社であり、申請人らが主張の如き株式を有する株主であつて、右株式の合計が発行済株式の一〇分の一以上に当ることが認められる。

そこで、前記登記簿謄本、同会社定款昭和二九年六月一八日現在の出資及帳簿外立替金一覧、昭和二八年一二月一二日現在及び昭和三二年六月五日現在の各預貯金残高証明書、第四期、第五期、第六期の各営業報告書、第六回定時株主総会開催通知、三角力蔵作成の「証」と題する書面、高橋丑松作成の「証」と題する書面、多摩自動車交通株式会社協議会申合書、昭和三一年一一月二九日付取締役会議事録、昭和三三年五月一五日付役員会議事録、昭和三四年五月九日付取締役会議事録、原稔の上申書、糟谷一男の上申書(二通)、萩原茂の上申書)二通)、秦好三郎の上申書、秦好三郎外七名の上申書及び代表取締役原忠夫、監査役中川昌智の各審尋の結果等を綜合して、申請理由につき順次判断するに、第一の二、八〇〇株につき全額払込を仮装したとの事実及び第二の事実は認め難い。第三の(イ)の相手方会社が昭和二八年一二月一二日設立以後最初の二年間は毎年四月と八月に開くべき定時株主総会を開かなかつた事実はこれを認め得るが、申請人らが株主となつた(昭和三一年三月)後である昭和三一年一二月六日に定時株主総会を開き、会社設立後第三期(昭和三〇年四月一日から昭和三一年三月末日まで)までの決算書類の承認を得たことが認められる。そうすれば、当初定時株主総会を開かなかつたことによる違法は一応治ゆされたとみるべきものであるから、このことをもつて検査役選任の理由とすることはできない。第三の(ロ)の事実は、これを認めるに足りない。第四の事実は、仮に申請人ら主張のとおり第六回定時株主総会における決議が強行されたとしても、かかる決議方法のかしの如きは通常は何ら会社の経理に直接影響を及ぼすものではないから、単に右のかしの存在することをもつて商法第二九四条にいう、法令、定款違反の重大な事実と認めることはできない。第五の事実中、(イ)、(ハ)、(ニ)の事実については、昭和三四年五月九日に開かれた取締役会において、第六期決算書を取締役全員一致して承認したことが認められるから右決算書に記載された申請人ら主張のような個人よりの借入金もしくは会社所有の土地建物の賃貸が、その当時取締役会の承認を得なかつたものとしても、最早この点の違法を問うことはできないものというべきである。また右決算書中に申請人らにその主張のような不明の点が存するからといつて、これをとらえて商法第二九四条第一項に該当する重大なる事実とまでは認め難い。第五の(ロ)の事実は、相手方会社においては役員に賞与を支給した事実が認められないから、主張のような違法があるとは認められない。第五の(ホ)の事実は、個人よりの借入金の利息が日歩金五銭であつたとしても、単にそのことだけでは、会社の利益を無視した行為とは認め難い。

以上申請人らの主張はすべて理由がないから、本件申請を却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 草間英一 裁判官 山崎宏八 青山達)

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